アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎は、かゆみや赤みを伴う皮膚の炎症が良くなったり悪くなったりを長年にわたって繰り返す皮膚の病気です。患者さんの多くは、気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などのアレルギー疾患を伴っており、血のつながった家族もこれらの疾患を有していることが多く見られます。
症状としては、目の周り、首、肘や膝の内側、手足の関節部分などに左右対称に湿疹ができます。耳たぶの付け根が切れたり、下まぶたの内側にシワができたりするのも特徴です。皮膚に赤みやブツブツが出て、これらを掻き壊すとジュクジュクし、やがてかさぶたになることがあります。湿疹が長引くと、患部の皮膚がゴワゴワと分厚く、固くなること(苔癬化)もあります。
この疾患は、皮膚のバリア機能の低下と、環境中のアレルゲンに対する過剰な免疫反応が関与して発症します。皮膚の乾燥、汗、ストレスなど、さまざまな要因が症状を悪化させることがあります。 乳幼児期に発症することが多いものの、成人期にまで持続するケースや、成人になってから発症するケースもあります。
慢性疾患であり、短期間で完治できる疾患ではありませんが、適切なスキンケア、治療により、症状が出ないように抑えることを目指します。当院では、患者さんお一人お一人の症状や生活環境に合わせた最適な治療法を提供し、症状の改善と生活の質の向上を目指しています。
アトピー性皮膚炎の治療法
スキンケア
毎日の入浴時の洗浄の仕方も、症状を左右します。皮脂欠乏性湿疹の治療と同様、皮脂を落としすぎない、こすらないことが大切です。また、アトピー性皮膚炎ではスキンバリアが弱くなっているため、洗顔料、化粧品によって顔にかぶれを起こすことが多々あります。お肌に合ったスキンケアができているか、見直すことが必要です。
外用療法
保湿剤
保湿剤の使用は、皮膚の水分保持機能を補強し、バリア機能を高める効果があります。保湿剤には、ヘパリン類似物質やワセリンなどがあります。処方薬がお肌に合わない場合、市販のもので充分コントロールできる場合は、市販のボディクリームなどでも構いませんが、オーガニック系は接触源となることがあるため、あまりお勧めしません。入浴後、塗るタイミングは、乾燥する前にすぐ塗ることが大切であると考えています。また、湿疹がよくなって保湿剤を塗るのもやめてしまうと、次の湿疹ができやすくなるため、ステロイドをお休みしても保湿剤はやめないで続けることが大切です。 保湿剤は症状を緩和するだけでなく、症状の再燃予防にも役立つということです。
ステロイド外用剤
ステロイド外用薬は、皮膚の炎症を効果的に抑える薬剤であり、小児から成人まで広く使用されています。
ステロイド外用剤には多数の薬剤があり、効果の強さによってランク付けされています。効果が強いと副作用も強くなる傾向にあるため、年齢、部位、症状の強さによってランクを選びます。ステロイドの副作用としては、皮膚が薄くなる、内出血しやすくなる、二次感染しやすくなる、毛細血管が拡張する、などがあります。一般的には、1日2回塗布を行うことが多いです。また、症状が改善した後も、再発を防ぐために週に2回程度ステロイド外用剤を続ける方法があり、プロアクティブ療法と呼ばれています。
ステロイドはいわゆるアトピービジネスにより副作用が誇張され、未だに「悪者」にされることがありますが、副作用を理解した上で、医師の指導の下で適切に使用すれば、そのリスクを抑えることができます。
タクロリムス軟膏
プロトピックⓇ(タクロリムス)軟膏は、免疫抑制作用を持つ外用薬で、ステロイドに代わる治療薬として登場しました。タクロリムスは、Tリンパ球という炎症に関係する細胞の活性を抑えたり、かゆみ物質の放出を抑えたりする作用があります。効果の強さでいうと、ステロイドの真ん中くらいのランクに相当します。その副作用の少なさから、特に顔や首などの皮膚が薄い部位によく使われていますが、身体の他の部分に使うこともできます。
このお薬は、1日1〜2回、1回につき5gまで塗布します。ステロイド同様、炎症が落ち着いた後に週に2回程度外用を続けるプロアクティブ療法を行うことも、再燃予防に効果を発揮します。濃度が2種類あり、0.1%は基本的に成人用、0.03%は小児用です。
副作用として、塗った時の刺激感、単純ヘルペス、にきびなどがあります。ステロイドと異なり、皮膚を薄くする副作用はありません。2歳未満のお子さんは原則的に使用ができません。妊婦さん、授乳婦さんは、使用量に注意して使用します。
デルゴシチニブ軟膏
コレクチムⓇ(デルゴシチニブ)軟膏は、日本で開発されたJAK阻害薬という種類の外用剤で、炎症とかゆみの原因となるサイトカインの働きを抑えます。プロトピックより刺激感が少ないようで、顔にも使えます。ステロイドのような切れ味はありませんが、副作用が出づらいことで長期外用に向くと考えられており、ステロイドである程度よくしてから移行していくようなやり方が考えられます。
このお薬は、1日2回、1回につき5gまで塗布します。濃度が2種類あり、0.5%は成人用、0.25%は小児用です。
副作用としては、ヘルペス、にきび、かぶれなどがあります。妊婦さん、授乳婦さん、生後6か月未満のお子さんは原則的に使用ができません。
ジファラミスト軟膏
モイゼルトⓇ(ジファラミスト)軟膏は、PDE4阻害剤と呼ばれ、体内で炎症を促進するシグナルを分解する酵素であるPDE4の働きを阻害することで、炎症を抑えるシグナルであるcAMP(サイクリックAMP)の濃度を高めます。ステロイドのような切れ味はありませんが、軟膏の割に伸びが良くて塗りやすく、保湿剤に準じて、赤みがあまりないときも、赤みが出やすいところに予防的に塗るような使い方が考えられます。
このお薬は、1日2回塗布します。濃度が2種類あり、1%は基本的に成人用、0.3%は小児用です。
副作用として、かぶれ、にきびなどがあります。妊婦さん、授乳婦さん、生後3か月未満のお子さんは原則的に使用ができません。
タピナロフクリーム
ブイタマーⓇ(タピナロフ)クリームは、アトピー性皮膚炎と尋常性乾癬の両方に使うことのできる、AhR調節薬という種類の薬剤です。細胞の中にある芳香族炭化水素受容体(AhR)という分子を活性化することにより、炎症に関わる物質を減らし、抗酸化分子を増やして、皮膚の炎症を抑制するとともに、皮膚バリア機能を改善します。
このお薬は1日1回外用します。
副作用として、塗り薬としては驚くことに、頭痛があります。他に、かぶれ、にきびなどがあります。妊婦さん、授乳婦さん、12歳未満のお子さんは原則的に使用ができません。
内服療法
抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は、アレルギー反応の一因であるヒスタミンの作用を抑制し、かゆみを軽減する目的で使用されます。
ただし、アトピー性皮膚炎の方の皮膚では、ヒスタミン以外のかゆみ物質も多数作用しているため、抗ヒスタミン薬だけで完全にかゆみを抑えることは難しいことが多いです。アレルギー性鼻炎など他のアレルギー疾患がなく、かゆみが全然変わらない場合に内服を続けることの意味は乏しいですが、 内服しているとかゆみが軽減されてかかないで済む、という場合には内服を行うことが望ましいでしょう。湿疹はかくことで悪化するからです。皮膚の炎症そのものを取る効果はあまり期待できないので、外用治療が主役で、抗アレルギー薬の内服は補助的な立ち位置になります。
多数種類があり、副作用は薬によって違いますが、眠気、口の渇き、肝機能障害、腎機能障害などが挙げられます。
シクロスポリン
ネオーラルⓇ(シクロスポリン)カプセルは、免疫の働きを抑えるカルシニューリン阻害薬という種類の薬です。副作用が多いため、難治性のアトピー性皮膚炎に限って、短期間の集中的な治療として用います。(近年の注射薬の登場によって、ここ数十年で使われる頻度が減りました。)
体重や症状に応じて用量を調整し、1日2回、食前に内服します。8週から12週間で終了としますが、それ以上の内服が必要な場合は、休薬期間を設けます。
副作用として、高血圧、糖尿病、高脂血症、肝機能障害、腎機能障害、各種感染症、しびれ、歯肉肥厚などが報告されています。安全に使用するため、定期的な血圧測定、血液検査を行います。妊娠中・授乳中の方は原則使用できません。なお、シクロスポリン内服中、生ワクチンを受けることはできません。また、紫外線療法は皮膚癌の発生のリスクを高めるため併用をしないことが望ましいです。
注射療法(生物学的製剤)
デュピルマブ
デュピクセントⓇ(デュピルマブ)皮下注は、IL-4、IL-13という二つのサイトカインを抑える注射薬で、皮膚の炎症とかゆみを軽減します。外用療法で十分な改善が得られない中等症から重症の患者さんに用います。
投与方法は、初回のみ2本を皮下注射し、その後は2週間に1回の注射を行います。医師の指導の下、自己注射といって、注射薬を持ち帰り自宅で打つことができます。
副作用として、ヘルペス、結膜炎、角膜炎、まれにアナフィラキシーなどがあります。アトピー性皮膚炎はもともと白内障、網膜剥離、緑内障(ステロイド外用の副作用による)といった眼の病気を起こしやすいので眼科で定期的に診察を受けることが大切ですが、この薬剤の投与中も特に目の症状に注意が必要です。妊婦さん、授乳婦さんの場合は、慎重に投与するか検討します。生後6か月未満のお子さんは投与ができません。また本剤投与中は、生ワクチンを受けることができません。
ネモリズマブ
ミチーガⓇ(ネモリズマブ)皮下注は、かゆみを引き起こす IL-31 というサイトカインを抑える注射薬です。様々な治療を行ってもなかなかかゆみが取れない患者さんに用いられます。
通常は4週間に1回皮下注射します。自己注射といって注射薬を持ち帰り自宅で打つことができますが、他の薬剤に比べて操作が難しい印象です。
副作用として、ヘルペス、結膜炎、頭痛、まれにアナフィラキシーなどが報告されています。妊婦さん、授乳婦さんの場合は、投与するか慎重に検討します。13歳未満のお子さんは投与ができません。また本剤投与中、生ワクチンを受けるかについては慎重に検討します。
オマリズマブ
イブグリースⓇ(オマリズマブ)皮下注は、アレルギーに関わる IgE 抗体を標的とする注射薬です。外用療法で十分な改善が得られない中等症から重症の患者さんに用います。
初回と2週間後に2本、4週間後の3回目以降は1本ずつ投与します。4週間後以降は、状態に応じて2週間おきではなく4週間おきに投与することもできます。
副作用として、注射部位反応、ヘルペス、結膜炎、頭痛、まれにアナフィラキシーなどが報告されています。小児の場合、12歳以上かつ40㎏以上であれば投与できます。妊婦さん、授乳婦さんの場合は、投与するか慎重に検討します。また本剤投与中は、生ワクチンを受けることができません。
紫外線療法
アトピー性皮膚炎に対し、紫外線療法についての確立したプロトコルやガイドラインはありませんが、経験的に多くの病院で使用されています。主に、外用療法でなかなかよくならない方は検討されるとよいでしょう。当院ではナローバンドUVB(narrow-band UVB、NB-UVB)とエキシマライトの2種類をご用意していますが、通常ナローバンドUVBが用いられます。紫外線療法は、アトピー性皮膚炎に対しては、尋常性乾癬に準じ、皮膚癌のリスクなどを考え、10歳未満のお子さんには勧められない治療とされています。
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