
紫外線療法
紫外線療法とは
紫外線療法は、理学療法に分類される光線療法の一種です。紫外線は日光光線の中では波長が短く、その中でもさらに波長により、長波長紫外線UVA(320~380 nm)、中波長紫外線UVB(290~320 nm)、短波長紫外線UVC(190~290 nm)に分けられます。
波長が短いほど透過性が小さくエネルギーが多くなります。UVCは皮膚の表面の細菌を殺す目的で殺菌灯に用いられており、皮膚科領域の治療ではUVAとUVBが使用されます。UVAはソラレンという光毒性物質との併用で用いられますが、臨床的にもっともよく使われているのはUVBです。特に311±2 nmの紫外線はナローバンドUVB(narrow-band UVB、NB-UVB)と呼ばれ、従来のUVB療法に比べ効果が高く、副作用も起こりにくいとされています。
NB-UVBと並んでもっともよく用いられているのが、308 nmのエキシマライトで、狭い面積の病変部を狙って当てるのに適したターゲット型の光線療法です。当院ではUVBを照射する医療機器として、NB-UVBとエキシマライトの二つを備えており、これらを患者さんによって使い分けています。
紫外線療法が適応となる疾患については後述します。
先に、紫外線療法の一般的な副作用について説明します。
副作用には、短期的なものと長期的なものとがあります。
短期的には、海に行って日焼けをしたときのように、皮膚が赤くなる、色素沈着を起こす、水ぶくれができる、ということが起こり得ます。(そうならないように出力は弱めから始め、徐々に強くしていきます。ただ弱すぎると効果がありません。)
長期的には、皮膚の光老化(しわ、たるみ)、発がんのリスクがあり得ます。発がんのリスクについては一番心配されるところですが、紫外線がDNAを傷害するので発がんしやすくなるはずだ、という理論上のものであり、実際に紫外線療法で皮膚がんが増えた、というデータはありません。
それでも、患者さんがお子さんの場合には、遠い将来に影響が起こるかもしれないことも考慮に入れて、紫外線療法を受けるかどうか、保護者の方もよく考え納得した上で決めることが大切です。
頻度については、疾患にもよるものの、週2回程度行えるとよいのですが、なかなか頻繁に通えない患者さんが多く、実際は1週から2週に1回程度ということが多いです。疾患に応じ内服や外用など別の治療と組み合わせながら、効果が出てくるまで、根気よく続けて頂くことが大切です。
紫外線療法が適応となる疾患(保険適用症)
2025年現在、紫外線療法は、乾癬、類乾癬、掌蹠膿疱症、菌状息肉症、悪性リンパ腫、慢性苔癬状粃糠疹、尋常性白斑、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症に対して保険適用が認められています。このうちいくつか抜粋して、紫外線療法の詳細についてご説明致します。
アトピー性皮膚炎
もともと皮膚バリア機能が低下し、アレルギーを起こしやすい素因をもった状態があり、そこにいろいろな刺激が加わって湿疹・皮膚炎ができて慢性化する疾患です。赤ちゃんのうちに発症する場合も、大人になってから発症する場合もあります。
ガイドラインでは、「適切な外用療法やスキンケア、悪化因子対策で軽快しない例や、他の治療で副作用を 生じている中等症以上の難治状態のアトピー性皮膚炎には、紫外線療法を行ってもよい」とされています。紫外線療法でかゆみがよくなっても、それに頼らず、しっかりとスキンケアや塗り薬を続け、紫外線療法をダラダラ続けないようにすることが大事です。ナローバンドUVB(narro-band UVB、NB-UVB)を用いることが多いですが、部分的に照射するのであれば、エキシマライトもよいでしょう。アトピー性皮膚炎の湿疹をかきこわしていると、次第にボコボコしてきて痒疹という状態になることがあるのですが、この痒疹にだけ当てるという使い方もよいでしょう。週に1回か2回くらい通うと効果を期待しやすいです。
アトピー性皮膚炎についてはこちら尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)
フケのついた赤い発疹が、からだ中にできます。刺激を受けやすいところに出やすいです。昨今では生物学的製剤という、余分な免疫を抑え込むタイプの薬剤がたくさん発売されていますが、これらは「既存の治療で効果不十分な場合」の使用に限定されています。既存の治療の中には、内服や外用の他、紫外線療法も含まれています。10歳未満の小児には勧められていません。
紫外線療法が効くメカニズムの一つとして、紫外線は、病因となっている細胞を抑え込む一方、病気がよくなる方向に働く細胞を手助けするのではないかといわれています。
尋常性乾癬は身体中の皮膚に症状が出ることが多く、当院では一度に広い面積に照射できるナローバンドUVB(narrow-band UVB、NB-UVB)のダブリン7(Daavlin 7)を用います。ところで、皮膚に比べて爪の症状は治りにくいのですが、エキシマライトを照射すると爪に効くことがあります。部分的に当てるのであれば、エキシマライトのFlexSys Fit 100もとても良いと思います。爪の場合、少し強めの設定から始めて行きます。
頻度は、病院などでは症状が重い場合に入院して週5回行ったりすることもありますが、ふつうは多くても週3回です。クリニックに通院して行う場合は、週1、2回通えると効果を期待しやすいですが、副作用にも注意する必要があります。またしばらく間が空いて久しぶりに照射を行う場合は、赤みが出やすいので少し弱めから再開することもあります。
現在、生物学的製剤と紫外線療法の併用については、効果や安全性が確認されていませんので、大きな病院などで生物学的製剤を受けていて、紫外線療法だけ当院で受けたい、という場合は、一度主治医の先生にご相談ください。
尋常性乾癬についてはこちら掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)
手のひらや足の裏に小さな膿がたくさんできて、赤くなったり皮がむけたりする疾患です。見た目は膿なのですが、細菌はいません。発症に扁桃腺炎、歯の感染症、副鼻腔炎などが関連していることがあり、また関節や骨などにも炎症を起こすことがあり、そうした場合は、歯科、耳鼻科、整形外科の先生との連携が必要になります。
紫外線療法については、推奨度がナローバンドUVB(narrow-band UVB、NB-UVB)もエキシマライトもC1と同じです。掌蹠膿疱症の皮疹は面積が狭いことと、当院のNB-UVBは立った状態で照射するタイプで足の裏には当てづらいことから、基本的にはエキシマライトであるFlexSys Fit 100を用います。外用剤をしっかりと使いながら、週1回を目安に、よくなったら2週に1回を目途に照射を受けてください。
円形脱毛症
円形脱毛症は、髪の毛や眉毛、ひげやその他の体毛が抜けてしまう疾患です。脱毛は他に原因があることもあるので、まずは診察を受け、必要であれば検査を行い、正しい診断を付けることが大切です。円形脱毛症は、毛の根元を免疫細胞が攻撃してしまうことで毛が抜けてしまうと考えられています。
ガイドラインでは、ナローバンドUVB(narrow-band UVB、NB-UVB)もエキシマライトも推奨度Bとなっています。ただし、頭全体の毛がすべて抜けてしまっている場合、頭皮のみならず眉毛や体毛なども抜けている場合のデータは限られています。円形脱毛症では、大小様々な脱毛斑があちこちにできることが多く、当院では主に部分照射に適したエキシマライトを用います。当院で採用しているエキシマライトのFlexSys Fit 100は、髪の毛に隠れた小さな病変にもしっかり当てることができます。弱めの設定で始め、照射したところが少し赤くなるくらいの設定で続けていきます。
ダラダラと続けるのはよくないですが、かといって1,2か月では効果が期待できないので、半年から1年で効果を判定します。なお、一般的に紫外線療法が忌避されるお子さんの場合も、円形脱毛症については脱毛による本人の精神的負担も考慮して、紫外線療法を用いることもありますが、やはり何年もダラダラと行うことは避け、効いていなければ思い切ってやめるようにします。
円形脱毛症についてはこちら尋常性白斑(しろなまず)
皮膚の一部がまだらに白くなる疾患です。詳しい原因はわかっていませんが、皮膚を顕微鏡で見てみると、メラニン色素を作る細胞であるメラノサイトがおかしくなり、しまいには消えてしまっています。他にも白くなる疾患はいくつかあるので、肌が白いなと思ったら、まずは診察を受けることが必要です。
日本皮膚科学会の尋常性白斑のガイドラインでは、成人の尋常性白斑についてはナローバンドUVB(narrow-band UVB、NB-UVB)が推奨度B、エキシマライトは推奨度C1ですが、NB-UVBで効果がなかった頭、首の白斑に対しエキシマライトが効いた例が少なからずあるという報告もあります。また、ビタミンD製剤という種類の塗り薬の効果が、紫外線療法と併用すると高くなるという報告もありますが、これを否定する報告もあります。
尋常性白斑では、細かい白抜けが多数できることがあるのですが、当院で採用しているエキシマライトのFlexSys Fit 100には、最小で径1㎝大の小さくて長い透明の筒が付いたクォーツチップが付属しており、これを用いることで、眉間、指のまた、耳の後ろなど当てづらいところにもしっかり当てることができます。治療の際に正常な皮膚に紫外線が当たると、そこの色が日焼けのあとのように濃くなってしまうことがありますが、クォーツチップやその他のトリートメントチップで照射範囲を限定することで、これを回避しやすいです。一方、白斑の面積が大きい患者さんには、NB-UVBのダブリン7(Daavlin 7)を用いることが多いです。
頻度については患者さんの生活に応じて決めていきます。頻度が多い方が効きそうですが、効果には頻度ではなく全部で何回やったかの方が決め手になる、という報告もあるので、忙しい方にもぜひ諦めずに試していただきたいと思います。
菌状息肉症(きんじょうそくにくしょう)
皮膚に発生するT細胞性リンパ腫という種類のがんの一種で、初期は湿疹や乾癬に似た症状を呈し、進行すると腫瘤や潰瘍が生じることがあります。初期にはステロイドの外用、紫外線療法を行います。腫瘤については、放射線を当てたり、手術で取ったりすることもあります。紫外線療法が効かない場合は、ビタミンAの飲み薬や、抗がん剤の投与などを行うこともあります。
リンパ腫の診療はリンパ腫専門の医師のもとで受けることが望ましいです。
当院で菌状息肉症を疑う症状をみつけた場合は、近隣では国際医療福祉大学三田病院など、専門家がいる病院にご紹介させていただきます。リンパ腫は全国的にも専門家が少なく、リンパ腫外来を行っている病院も限られますので、病院がご自宅から遠い、ということも多々あるかと思います。
もし、紫外線療法だけご自宅や職場に近い当院で受けたい、という患者さんがいらっしゃいましたら、主治医の先生とよく相談の上、紹介状をお持ちの上ご受診ください。主治医の先生のご指示のもと、定期的な照射を行って参ります。(主治医の先生におかれましては事前に一度お問い合わせ頂けますと大変助かります。)
当院で提供している紫外線療法
当院で採用している紫外線照射装置のご紹介
ナローバンドUVB Daavlin 7 Series (シネロン・キャンデラ社)

ナローバンドUVB療法は、311±2 nm付近の波長を用いた治療法です。当院では、シネロン・キャンデラ株式会社のDaavlin 7 Series(ダブリン7シリーズ)を採用しています。
Daavlin 7は、ナローバンドUVBランプ10本を搭載しており、パネルが扇状に開くことで、一度に大きな面積に均一な紫外線を当てることができます。立った状態で、身体の前面、後面の2回に分けて照射を受けます。
照射中は目を保護するため、ゴーグル、またはサングラスのようなメガネをかけて頂きます。最初は弱めの設定で始め、赤みやヒリヒリ感が出たかどうか、また症状がよくなっているかを確認しながら、当てる紫外線の強さを調節していきます。
副作用として、日焼けのような赤み、水ぶくれ、色素沈着、光老化などが起こることがあります。
皮膚悪性腫瘍がある人やあった人、皮膚癌になりやすい病気の人、過去にヒ素を摂取したことがある人、放射線(電子線・X線) 照射歴のある者人、色素性乾皮症・白皮症・ポルフィリン症・光線過敏性膠原病など光線過敏症のある人は照射ができません。光過敏性を有する薬剤、免疫抑制薬を内服している人、白内障のある人、光線で悪化する自己免疫性水疱症(天疱瘡、類天疱瘡など)の人にはお勧めできません。
化粧品使用中の患者は紫外線に対する皮膚の感受性が高くなります。照射前に化粧を落とすか、お顔を黒布などで覆う必要があります。小児に対する長期的な安全性は確立されていないため、10 歳以上で外用療法による効果が乏しい中程度以上のお子さんのみに、極力狭い範囲で行います。


エキシマライト FlexSys Fit 100(ジェイメック社)

エキシマライト療法は、308nmの波長を持つ紫外線を用いた治療法です。
当院では、株式会社ジェイメックのFlexSys Fit 100を導入しています。ターゲット型エキシマライトと呼ばれるもので、小範囲の病変に対してピンポイントに照射することができます。最小で径1㎝大の小さくて長い透明の筒が付いたクォーツチップが付属しており、これを用いることで、目・鼻・口・耳などの周り、あごの下、指のまた、髪の毛に隠れたところなどにもしっかり当てることができます。
大きめの病変の場合は、一番大きいもので5×3.5 cm大の長方形のチップが付いていますので、こちらを用いて照射していきます。照射中は目を保護するため、ゴーグル、またはサングラスのようなメガネをかけて頂きます。最初は弱めの設定で始め、赤みやヒリヒリ感が出たかどうか、また症状がよくなっているかを確認しながら、当てる紫外線の強さを調節していきます。



副作用として、日焼けのような赤み、水ぶくれ、色素沈着などが起こることがあります。機器から出る電磁波のペースメーカー装着患者さんへの安全性は確立されていません。放射線治療中の人、患部に皮膚感染症を生じている人、光に関する皮膚の問題や過敏性がある人、皮膚がんにかかったことがある人、光増感剤を使用した併用療法を受けている人は照射できません。生殖器に影響を及ぼす可能性があるため、男性の陰部には当てられません。妊婦さんに対する安全性は確立されていません。